――自然とともに歩む、OGINO VINEYARDの実践から学ぶ
みずみずしい果肉、皮ごと食べられる手軽さ、洗練された香り。
マスカット、とくにシャインマスカットは、ここ数年で日本のフルーツ市場を牽引する存在となりました。
一方で、その人気の裏側には、気候変動によるリスク、農業資材の高騰、担い手不足、土壌疲弊といった課題も立ちはだかります。こうした中、今後求められるのは、「作り続けられる農業」、つまり持続可能な生産体制の構築です。
本記事では、山梨県甲州市でマスカットを育てるOGINO VINEYARDの事例を中心に、持続可能なマスカット栽培のための実践を掘り下げていきます。
なぜ「持続可能性」が必要なのか?
農業はもともと、自然と向き合い、調和していく営みでした。しかし近年、極端な天候や労働力不足、コスト増加により、マスカット栽培を継続すること自体が大きな挑戦になりつつあります。
さらに、シャインマスカットの人気による生産の急拡大に伴い、品質のばらつきや市場価格の不安定化といった副作用も起こっています。
持続可能な生産とは、「環境への配慮」だけでなく、「経済的安定性」「地域との共生」「次世代への継承」を含む複合的な視点から実現されるものです。
事例1|土壌の力を活かす“自然循環型農法”
OGINO VINEYARDでは、農薬や化学肥料に依存しすぎない栽培スタイルを採用しています。
病害虫対策や施肥の最小化を意識し、植物自身が本来持つ力と土壌微生物の働きを活かした農法を追求しています。
具体的には、
有機質を多く含んだ堆肥を使用
畝間に草を生やすことで土壌の呼吸性を維持
雨水や地下水を活用し、水資源の循環を促す
一年を通じて“畑の声”を聞きながら柔軟に管理を調整
荻野さん:「すぐに結果が出るやり方ではないですが、長い目で見れば土が豊かになり、果実の味にも表れてくる。畑と“共生する感覚”が大切です」
このような農法は、化学的な処置に頼らずとも健全な作物を育てる可能性を高めるとともに、自然環境への負荷を減らすという面でも注目されています。
事例2|気候変動への備えとリスク分散
近年、マスカット栽培で最も懸念されているのが「極端な気象条件」です。
特にシャインマスカットは、裂果・日焼け・病害に弱く、気候の変化に敏感です。
OGINO VINEYARDでは、以下のような対策を実践しています。
被覆資材を用いた雨除け栽培で裂果を防ぐ
果実に直射が当たりすぎないよう房の向きを調整
開花〜着果期の気象データをもとにした防除計画の柔軟化
畑ごとに複数品種を栽培し、成熟時期の分散を図る
これにより、1つの気象災害が全体に与える影響を抑え、年間の安定収穫と品質維持を実現しています。
事例3|人を育てる農業の仕組みづくり
持続可能な農業は、「人が続けられる仕組み」も必要不可欠です。
OGINO VINEYARDでは、次のような仕組みで人材育成・継承にも取り組んでいます。
季節労働者・アルバイトの柔軟な受け入れ
地元高校・大学との連携による農業体験の受け入れ
若手農業者とのネットワークづくりと技術の共有
SNSやWebサイトで農業のリアルを発信し、関心を広げる
「“農業=重労働で報われない”という印象を変えたい。新しい関わり方、参加の仕方を提示することが、次の世代につながるはずです」
栽培技術だけでなく、地域社会に“農に触れる場”をつくることも、持続可能性への大きな一歩です。
事例4|“6次産業化”で価値の最大化を図る
単に果実を作って出荷するだけでは、価格変動や販路依存のリスクが高まります。
そこでOGINO VINEYARDでは、「栽培」「加工」「販売」を一体化させた6次産業化に挑戦しています。
直販サイト「PIEMO VERITA(ピエモヴェリタ)」でのEC展開
観光客向けの収穫体験イベント
地元ワイナリーや飲食店との商品コラボレーション
果実の規格外品を使った加工品(ジュース・ジャム)開発
こうした取り組みは、収益の安定化はもちろん、地域との連携・顧客との関係性を深める効果もあります。
これからのマスカット栽培に必要な視点とは
OGINO VINEYARDの実践から見えてくるのは、“環境” “経済” “人” “地域”のすべてをバランスよく考慮した生産体制の重要性です。
単に「美味しい果物をつくる」ことではなく、
自然環境と調和しながら
無理のない形で作り続けられる
地域経済や暮らしに貢献できる
次世代が憧れを持てる農業を築く
こうした広い視点が、今後のマスカット栽培の価値を高めていく鍵になるでしょう。
まとめ|“育てる”から“未来を共につくる”農業へ
シャインマスカットは、消費者にとっては贅沢な一粒かもしれませんが、生産者にとっては日々の試行錯誤と責任の結晶です。
持続可能なマスカット栽培とは、「今のため」ではなく、「未来のため」の農業。
OGINO VINEYARDのように、“自然・人・地域”が調和する循環を丁寧に育むことが、これからの果実づくりの姿なのです。