なぜ“品種選び”が重要なのか
マスカットは一度植えれば10年、20年と長く付き合う作物です。つまり、最初に選んだ品種が、その後の“農業人生”の方向性を決めるといっても過言ではありません。
❶ 栽培環境との相性
気候・土壌・標高・風通し・日照時間――こうした環境条件によって、向いている品種は変わります。品種によっては“高温障害”や“裂果”“色付き不良”といった問題が起きやすくなることも。
❷ 作業負担とリスク
品種によっては摘粒や房づくりが非常に繊細で、作業時間が大幅に増えることがあります。また、病害虫に弱い品種は、消毒回数も多くなりがちです。
❸ 市場価値の変動
どんなに味がよくても、市場ニーズから外れた品種では販売が難しくなります。最新の市場動向や消費者の傾向も品種選びには欠かせません。
主力品種|やっぱり“シャインマスカット”は外せない
◆ 基本情報
果皮色: 黄緑色
糖度: 18〜20度以上
収穫期: 8月下旬〜9月
皮ごと食べられる/種なし加工が可能
2006年に登場し、日本の高級果実市場を塗り替えた「シャインマスカット」。その食味・香り・扱いやすさのバランスの良さは、多くの生産者にとっての“安定ブランド”といえるでしょう。
◆ 育てやすさ
比較的病害に強く、裂果も少ない
着色管理の必要がなく、見た目が安定
人気の高さから、販売先が豊富
◆ 注意点
房づくりと摘粒の精度が品質を左右する
市場への流通量が多いため、今後は差別化が必要
シャインマスカットは「とりあえずこれから始めてみたい」人にとって、まさに最適な品種。栽培技術の習得にも向いており、OGINO VINEYARDでも主力品種のひとつとして栽培しています。
個性派品種|次の一手を考えるならこの3つ
将来的に“品種の多様化”を図るなら、シャインマスカットだけにとどまらないラインナップを検討するのもおすすめです。
1. クイーンルージュ®(皮ごと赤系・高糖度)
果皮色: 赤〜赤紫
糖度: 20〜22度と非常に高い
特徴: シャインマスカット×ユニコーンの交配品種
見た目の美しさと高い糖度、そして皮ごと食べられる食味の良さで、次世代の赤系高級ぶどうとして注目されています。まだ生産量が少ないため、希少価値が高く、高価格帯での流通が期待できます。
注意点:
着色管理が繊細。日焼けや高温障害に弱いため、施設栽培のほうが向いています。
2. バイオレットキング(紫黒系・超大粒)
果皮色: 濃紫色
特徴: 1粒20g以上の超大粒、インパクト抜群
収穫期: 9月〜10月上旬
視覚的インパクトとボリューム感から贈答用に人気の品種。シャインマスカットと組み合わせた“彩りセット販売”などにも向いています。
注意点:
裂果しやすいため、水管理や房作りには高い精度が求められます。
3. マイハート®(ハート形・女性人気)
果皮色: 淡い赤系
特徴: その名の通り、粒がハート形に実る
糖度: 約19度前後
市場に出回りはじめたばかりの新しい品種。形の可愛らしさからSNS映えしやすく、若年層・女性をターゲットにした販売戦略にマッチします。
注意点:
病害虫への耐性はやや弱いため、手間がかかります。
市場ニーズの動向と品種選び
◆ 高糖度×皮ごと×種なしがトレンド
近年の消費者は“手軽に・美味しく・見た目よく”を求めています。そのため、
皮ごと食べられる
高糖度
種なし処理済み
この3点を満たした品種は、常に人気があります。
◆ ギフト市場を見据えた「ストーリー性」
単なる美味しさだけでなく、「珍しい形」「希少品種」「作り手の背景」といったストーリー性が重視される傾向があります。
マスカットにおいても、“ただ売る”のではなく“魅せて伝える”時代へと移行しています。
品種の選び方ガイド:3つの視点
① 初期導入のしやすさ
育てやすく病気に強い
土壌や気候への適応性が高い
既存ノウハウが豊富にある(例:シャインマスカット)
② 販売戦略に合うかどうか
地元市場?贈答用?百貨店?
加工や直販も見据えるか?
顧客のニーズに合ったスペックか?
③ 将来的な差別化の余地
他産地との差別化
他品種とのセット販売
ストーリーやデザイン性
まとめ|“売れる”と“育てられる”の重なる一点を探す
マスカットの品種選びは、「育てられる」と「売れる」が重なる地点を見極めることが大切です。
誰もが育てやすい品種=競争も激しくなりやすく、
一方で希少性の高い品種=高収益が狙える反面、手間もリスクも増えます。
大切なのは、自分の環境・技術力・販売戦略に見合った「ちょうどよい」品種を選ぶこと。
OGINO VINEYARDでは、土地の特性を見極めながら、時代に合った品種を常に模索しています。品種選びは“始まりの選択”であり、未来への投資でもあります。
あなたの一歩が、やがて誰かの心を動かす果実となりますように。