―― 果実を守るために、いま向き合うべきリスク管理とは ――
シャインマスカットは、その美しさと香り、そして甘みにおいて、果実の中でも極めて繊細な存在です。生産の手間と技術を要する反面、わずかな気候変動や病害虫の影響によって品質が損なわれてしまうリスクも高く、年間を通じた丁寧な管理が求められます。
なかでも重要なのが、「病害虫への備えと対応力」です。栽培規模の大小にかかわらず、発生の初期兆候を見逃すと、取り返しのつかない被害へとつながりかねません。
この記事では、シャインマスカット栽培における主要な病害虫の種類とその特徴、そしてOGINO VINEYARDの実践を踏まえた対策のポイントを、月ごとの管理とともに徹底解説します。
まず押さえるべき「病害虫対策の基本姿勢」
病害虫対策において大切なのは、「発生してから対処」するのではなく、「発生させない仕組みを作る」ことです。
対策の基本は次の3ステップ。
予防的な環境管理(風通し、湿度、剪定)
早期発見と記録の習慣化(葉や果実の観察、圃場ノートの活用)
的確な初期対応(被害拡大の防止とリセット)
OGINO VINEYARDでも、農薬のみに頼らず、「健全な環境」と「生育バランス」を整えることを重視しています。以下、主な病害虫とその具体的な対策について見ていきましょう。
【病害編】シャインマスカットを脅かす代表的な病気と対策
■ ベト病(Plasmopara viticola)
症状:葉に黄色い斑点が現れ、やがて白いカビ状の胞子が裏面に発生。進行すると落葉・果実品質低下。
発生時期:梅雨期〜夏(高湿度・雨が続く時期)
対策:
枝葉の整理で風通しを確保
雨天後は速やかな葉面乾燥を促す
発生初期に銅剤やダコニール系などの防除
OGINO VINEYARDでは、剪定と誘引で枝間の「湿気溜まり」を回避し、病原菌が繁殖しづらい構造を作っています。
■ うどんこ病(Uncinula necator)
症状:葉や果実表面に白い粉状の菌糸が付着。果皮が割れたり、食味が著しく劣化する。
発生時期:春〜秋の乾燥時(高温・多湿でないときも発生)
対策:
定期的な葉面観察で早期発見
抵抗性資材(硫黄合剤など)の使用
樹勢が強すぎると枝葉が密集しやすいため、養分バランスの見直しも有効
うどんこ病は、湿度だけでなく光と風の通り方にも左右されます。房の周りに「隙間」を意識した管理が求められます。
■ 灰色かび病(Botrytis cinerea)
症状:果実や葉に灰色のカビが付着し、房が腐敗して脱落。雨続きの時期に顕著。
発生時期:梅雨〜収穫前後(特に袋掛け前後)
対策:
摘粒時の傷口を最小限に
開花〜肥大期の湿度調整と袋掛けタイミングの最適化
予防的にボルドー液や殺菌剤を選定
果実への物理的な傷口が、菌の侵入口になります。作業精度そのものが病害リスクを左右するという点がポイントです。
【害虫編】注意すべき虫とその駆除・管理方法
■ ハダニ類(Tetranychus urticaeなど)
症状:葉裏に白〜黄の小さな斑点、やがて葉が枯れる。果実への影響は少ないが光合成効率を下げる。
発生時期:乾燥した初夏〜盛夏
対策:
定期的な葉裏のチェック
発生初期のマシン油乳剤や選択性薬剤で対応
過剰な窒素肥料を避け、樹勢管理によるバランスの維持
■ コウモリガ・ブドウトラカミキリ
症状:木の幹内部を食害し、やがて枯死するリスク。幼虫の食害により樹勢が著しく低下。
発生時期:5月〜9月
対策:
樹皮の割れ目を定期点検し、産卵箇所の早期発見
食害痕が見つかれば、殺虫剤を注入または成虫駆除
予防的にトラップ設置や幹回りの管理を行う
■ アブラムシ・カイガラムシ類
症状:新芽や若葉を吸汁し、生育が停滞。排泄物によりすす病を併発しやすい。
対策:
早期の物理的除去(手で落とす、剪定)
マルチネやスピノサド系薬剤などのピンポイント対策
樹勢過多を避け、自然のバランスを保つ
【月別管理カレンダーで見る対策イメージ】
月 主なリスク 推奨する対策
3〜4月 うどんこ病・ハダニの初期発生 剪定・誘引・光と風の通り道の確保
5〜6月 ベト病・花穂整形時の灰色かび 開花前の予防剤散布・潅水調整
7〜8月 ハダニ・カイガラムシ・灰色かび 袋掛け前後の徹底管理・害虫駆除
9〜10月 灰色かび・果実腐敗 房周りの湿気除去・収穫前観察
11〜12月 コウモリガなど越冬準備の虫 樹皮の整理・清掃・成虫トラップ
OGINO VINEYARDの「病害虫との向き合い方」
OGINO VINEYARDでは、ただ農薬を撒くだけでなく、「病害虫が発生しにくい環境を育てる」という考え方を基本としています。圃場全体の空気の流れを読むように設計し、木一本ずつの樹勢を見ながら、過保護にも過剰にもならないバランスを大切にしています。
また、異変を早く発見するために**「気になる芽・葉・房をメモする習慣」も徹底しています。これは、感覚だけでなく定点記録に基づいた判断を促す**ための工夫です。
最後に|“守る”ことで“育てる”ことがはじまる
病害虫対策は、一見「防御」のように見えるかもしれません。しかし実際は、果実の未来を信じて、その可能性を守る「攻めの一手」でもあります。
シャインマスカットの輝きは、自然との協働によって生まれます。だからこそ、病気や虫の兆しを「敵」としてではなく、「自然からのサイン」として受け止め、日々の観察を怠らないことが、生産者に求められているのではないでしょうか。