なぜ土壌管理がそこまで重要なのか?
地上の姿は“地下の環境”の映し鏡
ぶどうは、根から水分・養分を吸収し、葉で光合成を行い、果房へと栄養を運びます。このプロセスを正常に、効率良く行うには、根が健全に活動できる「土壌環境」が不可欠です。

根が窒息するような粘土質の土、極端に乾燥した土、微生物が少なく硬く締まった土では、どんなに肥料を与えても植物はうまく育ちません。特にシャインマスカットのような高品質を求められる品種は、土壌ストレスに非常に敏感です。

理想的なマスカット栽培の土壌条件とは?
❶ 水はけと保水性のバランス
「水はけが良いこと」と「乾きすぎないこと」は一見相反する条件ですが、ぶどう栽培ではこのバランスが非常に重要です。

排水性が悪いと: 根腐れ・病害発生・樹勢の低下

乾燥しすぎると: 生育停滞・果粒の肥大不良

理想は“排水性がありつつ適度に保水する”砂壌土。排水性の悪い土地では暗渠排水などの整備が必須です。

❷ 通気性
根にも“呼吸”が必要です。団粒構造の整ったふかふかした土は、酸素と水がバランスよく行き渡ります。逆に硬盤化した土壌では、根が酸欠状態になり、健全な根張りができません。

❸ pH値の調整
シャインマスカットはやや中性〜弱酸性(pH6.0〜6.5)を好みます。酸性に傾いた土壌では石灰を用いた矯正が必要です。栽培前には必ず土壌診断を行い、pHやCEC(塩基置換容量)を確認しましょう。

OGINO VINEYARDが実践する「土づくり」の基本方針
OGINO VINEYARDでは、見えない地中にこそ価値があると考えています。以下の3つのアプローチを重視しています。

① 有機物のすき込み
落ち葉、バーク堆肥、米ぬかなどの有機資材を定期的に畑に施し、微生物の住処を増やします。これにより団粒構造が形成され、フカフカで呼吸する土へと変わっていきます。

② 微生物の活用
酵母菌、乳酸菌、光合成細菌など、微生物のバランスを意識しながら、土壌の生命力を高めています。根から養分を吸収しやすい“共生環境”をつくることが目的です。

③ 草生栽培の導入
全面的に雑草を抑え込むのではなく、畝間に雑草を残しつつ、草の根が土を耕す“自然のチカラ”を活用。根の張り方や湿度バランスを整えるための工夫です。

実践編:土壌管理スケジュールと作業内容
年間の土壌管理スケジュール(例)
月 作業内容
1月 石灰・堆肥の施用、耕起
3月 土壌分析、必要に応じて苦土・リン酸の補正
5月 草刈り/中耕で根の呼吸を助ける
7月 雨季後の排水状態チェック
9月 有機資材のすき込み/根域調査
11月 収穫後のリセット施肥(お礼肥)と冬支度

※地域や圃場の条件により調整が必要です。

肥料に頼りすぎない、土本来のチカラを信じる
肥料を多く与えれば果実が良くなる、というのは一見魅力的な発想ですが、マスカットは“栄養過多”にも敏感な作物です。とくにチッソ分の過多は、徒長や果実の着色不良、病害の誘発にもつながります。

OGINO VINEYARDでは、**「施す前に、まず観察」**を合言葉に、葉色・枝の伸び・根の状態を見ながら必要最小限の肥培管理を行っています。

土は生きている。だからこそ、変化を読む
土壌は一度つくって終わりではなく、毎年変化し続けます。雨量、気温、作物の生育状況によって、地中の環境も常に変わり続けています。

だからこそ、生産者に求められるのは“データだけに頼らない感覚”。
たとえば、

畑の匂いが変わった

雨の後の乾きが遅くなった

雑草の種類が変わった
といった、小さな変化を見逃さない「観察力」こそが、土壌管理の力になります。

まとめ|ぶどうが語る、土の物語を聞くために
シャインマスカットは、土の良し悪しを如実に表現する果実です。樹の健康状態、果房の張り、糖度、香り――そのすべてが、土の状態に影響されます。

“良い果実をつくりたい”という想いは、まず“良い土をつくること”から。
見えない地中にこそ、未来の実りが眠っています。

OGINO VINEYARDでは、「農業=人と土との対話」と捉え、畑という空間に耳を澄ませながら日々土と向き合っています。

これからマスカット栽培を始めようというあなたにとっても、土壌管理は決して難解なものではありません。大切なのは、“自分の畑に関心を持つこと”。土が変われば、ぶどうも変わります。そして、ぶどうが変われば、あなたの農業も変わるでしょう。