OGINO VINEYARDは、山梨の風土とともに歩み、マスカットに宿る可能性と日々向き合うワイナリーです。果実そのものの魅力を引き出すこと。土地を尊重し、持続可能な農業を実現すること。そして、地域社会とともに成長していくこと。そのすべては、たった一本の「苗木選び」から始まりました。
本記事では、マスカット栽培の起点となる「苗木」を切り口に、生産者の挑戦を支援する視点から、地域・土壌・未来へのつながりを紐解いていきます。
苗木は“未来の果実”を内包している
果樹栽培において、苗木とは単なる“植物のスタート地点”ではありません。それは、生産者の想いをのせて、10年後、20年後の果実や風景を左右する“未来の設計図”です。
OGINO VINEYARDでは、苗木の選定に妥協をしません。気候、風の流れ、日射角、水脈、地中の微生物バランスまで読み取ったうえで、最もその土地に適した品種・台木・生育状態を選びます。時間と手間を惜しまず、一本一本と対話するように選ばれた苗木たちは、やがて自らの力で根を張り、畑を彩る主役となっていきます。
苗木選びは地域を知ることから
「どんなマスカットを育てたいか」よりも、「この土地でどんなマスカットが生きられるか」を考えることが、生産者の最初の役目です。
マスカット、とくにシャインマスカットは高温・乾燥を好むため、日本の中でも地域差に大きく左右されます。たとえばOGINO VINEYARDがある山梨県甲州市塩山地区は、昼夜の寒暖差が大きく、粘土質の水はけのよい土壌が特徴。マスカットの糖度を上げやすく、皮ごと食べる品種の果皮も薄く仕上がりやすい地域です。
そのため、地元の苗木業者や研究機関との連携も欠かせません。苗木の仕立て方や接ぎ木のタイミングなども、その土地の経験知が活きる場面です。
苗木の背景にあるストーリー
良い苗木には、生産者の哲学が宿っています。
たとえば、近年は「ウイルスフリー苗木」の需要が高まっています。これは、ウイルスに感染していない、健全な生育が見込める苗木。一本の苗木を手にするまでには、クリーンベンチ下での組織培養、複数年に渡る健康チェックなど、見えない努力の積み重ねがあります。
OGINO VINEYARDでは、そうした健全性を重視した苗木を採用し、「一粒の品質」にこだわる基盤を築いてきました。
苗木選びを支える“地域コミュニティ”
苗木は“仕入れ”ではなく“関係構築”だと、私たちは考えています。
苗木業者との信頼関係、JAや地元農業研究所との情報交換、地域のベテラン農家との雑談に至るまで、すべてがその苗木の未来を豊かにします。
たとえば、気候変動によって過去に適していた品種が通用しなくなることもある今、「地域の知見」はより重要性を増しています。特に若手生産者や新規就農者にとって、地域コミュニティの中に身を置くことは、情報や支援、つながりを得る大きな資源となるでしょう。
苗木から生まれる“雇用と文化”
苗木は、やがて地域の“産業”へと育ちます。
マスカットの栽培が軌道に乗れば、選果・収穫・袋掛け・箱詰めと、様々な労働が地域に生まれます。それは雇用を生み、技術の継承となり、家族経営から法人農園への移行を支える土台になります。
さらに、収穫体験・ワイナリーツアー・地域イベントなど、果実そのものが文化の中心へと育っていく。その第一歩が苗木選びだと考えれば、そこには“地域の未来を背負う重み”すら感じられるのです。
苗木選びを通じて見える「支援」の形
マスカット栽培を志す人々にとって、苗木選びは技術よりも“支援体制”の有無が鍵となります。
苗木提供業者との連携
専門家による講習やワークショップ
地域のリーダーによる育成プログラム
自治体・民間の補助金制度や融資支援
就農者向けの研修・農地紹介制度
これらが整っていればこそ、挑戦は持続可能な形となり、地域として「次の生産者世代」を迎える準備が整っていきます。
OGINO VINEYARDもまた、そうした未来の担い手とともに歩む存在でありたいと願い、日々の活動を重ねています。
まとめ:一本の苗木が地域を変える
「たかが苗木、されど苗木。」
その一本の苗木が、やがて1房のマスカットを生み、ひとりの笑顔を生み、ひとつの地域の自信へとつながっていく。
OGINO VINEYARDが大切にする“ていねいな始まり”は、単なる果樹栽培の枠を超え、地域や文化とともに歩む物語として根づいています。
マスカットを育てるということ。それは、土地の声に耳を傾け、仲間とつながり、小さな未来に希望の根を下ろすこと。
その最初の一歩である“苗木選び”こそ、生産者の志と、地域の可能性が交差する出発点なのです。