なぜ土づくりが大切なのか?
「土」は、根と微生物の暮らす世界
シャインマスカットの木は、地中に深く根を張り、そこから水分や栄養を吸収します。
その根が健やかに育つかどうかは、土の「構造」「栄養バランス」「生き物の多さ」にかかっています。
見た目の立派な房を育てるには、地表の管理以上に「見えない地下の環境」に目を向けることが不可欠です。
土が整えば、ぶどうが応えてくれる
養分の吸収がスムーズになり、果実に味がのる
水はけがよくなることで病害の発生リスクが減る
微生物が活発に働き、土壌の自然循環が生まれる
“よい土”は、余計な施肥や薬剤に頼らずとも、ぶどうの木が自らの力でバランスを保ちやすくなる土台をつくってくれます。
理想的なマスカット向きの土とは?
マスカットに限らず、ぶどう栽培に向く土にはいくつかの特徴があります。
■ 水はけのよさ(排水性)
ぶどうは水を好みますが、根が常に湿っている状態は好みません。
特に梅雨時期や長雨の後、地中に水が溜まりやすい圃場では根が酸欠を起こし、病気や生育不良の原因になります。
▶ 対策:暗渠排水の設置、畝上げ、客土など
■ 適度な保水性
水が抜けすぎてしまうと、夏場の乾燥で根がダメージを受けます。特に若木は根の張りが浅いため、保水性のある表土層が重要です。
▶ 対策:有機物のすき込み、草生栽培で表面保湿
■ 団粒構造(通気性と養分保持の両立)
細かく砕かれた“粉のような土”ではなく、粒が集まってできた“団粒構造”の土が理想。これにより水・空気・微生物の通り道が確保されます。
▶ 土の感触がサラサラで、握るとほぐれるような状態が目安
土づくりのステップ:OGINO VINEYARDの実践
1. 土壌診断から始める
まず行うのは、現在の土の状態を“見える化”すること。
pH、EC(電気伝導度)、腐植含量、窒素・リン酸・カリウムのバランスなどを分析することで、適切な改良の方向性が見えてきます。
※OGINO VINEYARDでは、毎年冬の剪定後に圃場ごとの土壌診断を実施し、微調整を続けています。
2. pHの調整(理想は6.0〜6.5)
シャインマスカットは、やや中性〜弱酸性を好むため、pHが5.5以下の強酸性土壌では石灰資材で矯正を行います。
苦土石灰、炭カルなどをすき込み
秋〜冬のうちに行い、春の定植に備える
3. 有機物で微生物の活性化を
土づくりに欠かせないのが、完熟堆肥や落ち葉、米ぬかなどの“命ある資材”。
こうした有機物をすき込むことで、微生物が活性化し、団粒構造が生まれ、自然の循環が回り始めます。
▶ ポイント:未熟堆肥は根傷みや病原菌の原因になるため要注意。匂いがなく、サラサラした完熟タイプを選びましょう。
4. 根の環境を守る「草生栽培」
OGINO VINEYARDでは、畝間に雑草やクローバーなどをあえて生やす“草生栽培”を取り入れています。
雨の衝撃から土を守る
土中に有機根が広がり、微生物が増える
土が締まりにくくなり、通気性が維持される
定期的に草丈を管理することで、養分の過度な競合も避けられます。
年間スケジュールに組み込む「土と向き合う時間」
時期 土づくりに関連する作業例
1月〜2月 石灰・堆肥の投入、圃場の耕起
3月〜4月 土壌診断、補正施肥、畝立て
5月〜8月 中耕、雑草管理、水分調整
9月〜10月 収穫後のお礼肥、有機資材のすき込み
11月〜12月 冬支度、排水路の点検、微生物資材投入
ぶどうがいない“オフシーズン”こそ、土と真剣に向き合う絶好のタイミングです。
土は、農業の「未来の通帳」
「すぐに結果が出ないからこそ、やる価値がある」
土づくりは、ある意味“地道”な作業です。派手な変化はありません。しかしその積み重ねが、3年後、5年後の房に確実に表れます。
手を入れた分だけ、土は応えてくれます。
良い土には、力があります。ぶどうを育てる力、病気に勝つ力、味を高める力――
すべては、目に見えない地中で起きています。
まとめ|“根を育てる人”になるという選択
ぶどう栽培は、「根を大切にできる人」こそが成功する作物です。
逆にいえば、どんなに優れた苗や技術を持っていても、根が弱っていては何も始まりません。
だからこそ、マスカット栽培における第一歩は、土と向き合い、土を育てること。
それは、果実を育てる前に、“環境を整える”という覚悟でもあります。
OGINO VINEYARDも、何度も失敗を繰り返しながら、自分たちの圃場に合った“ちょうどいい土”を見つけてきました。この記事が、あなたのぶどう人生の第一歩の手助けとなれば幸いです。