STEP 1|最初の分かれ道:土地の選定
マスカット栽培の成否は「適地選び」から始まります。品種特性を理解した上で、環境との相性をしっかり見極めましょう。
【日照】
ブドウは“太陽を食べて育つ”果実。日照時間が長く、日の当たる時間帯が安定している土地を選びます。南向きの斜面や傾斜地は、朝晩の冷え込みを和らげ、糖度や風味を高めてくれます。
【土壌】
最も重要なのは「水はけの良さ」。マスカットは根が過湿に弱く、根腐れを起こしやすいため、砂壌土や軽い粘土質が理想です。透水性の悪い土地では、暗渠排水などの整備も検討しましょう。
【風通し】
風通しの良い土地は病害のリスクを下げ、栽培全体の安定性を高めます。加えて、風の通り道は寒冷地では霜の影響を緩和する役割も果たします。
STEP 2|理想の栽培スタイルを決める
シャインマスカットの栽培には大きく分けて「露地栽培」と「施設(ハウス)栽培」の2種類があります。
●露地栽培:自然のリズムを活かす
コストを抑え、自然の気候を活用した方法。雨や台風など天候リスクも伴いますが、土地本来の味を反映させた果実づくりが可能です。初めての導入としても取り組みやすい方法といえます。
●施設栽培:品質と時期をコントロール
ハウスを用いた管理型栽培では、病害虫の抑制や収穫時期の調整が可能。温度や湿度、潅水量まで細かく制御できるため、より高品質・安定供給を目指す生産者に適しています。
STEP 3|棚づくりと定植の準備
棚は、マスカットの栽培においてまさに「舞台」です。この段階での設計や施工が、その後の作業性や果実の質を大きく左右します。
【主な棚の種類】
一文字短梢栽培:作業がしやすく、管理効率に優れる
T型棚栽培:広範囲に枝を張れるため、日当たりと風通しに優れる
V字棚・Y字棚:収量を高めやすく、果房の管理がしやすい
【定植のタイミング】
苗木の定植は休眠期(11〜3月頃)に行います。植え穴には堆肥や元肥を加え、根が定着しやすいよう柔らかく整地します。
STEP 4|1〜3年目の管理と枝づくり
苗木を植えた後、すぐに果実が実るわけではありません。収穫が本格化するのは3年目から。それまでの期間は、樹勢の安定と枝づくりに専念することが重要です。
【1年目】
主幹(中心となる幹)をまっすぐ伸ばし、余分な枝は取り除きます。樹形を整える「整枝」が重要な作業になります。
【2年目】
骨格となる枝(主枝)を伸ばして棚に固定。病害虫対策と灌水管理を徹底し、無理な実付けは避けます。
【3年目】
房づくりが本格的に始まります。適正な花穂の数を残し、摘蕾や摘粒などの技術を身につけていきます。
STEP 5|剪定の基本と実践
剪定は、マスカット栽培における“命を吹き込む作業”とも言えます。収量や品質を左右する極めて重要な工程です。
【剪定の目的】
樹の栄養バランスを保ち、樹勢を整える
日当たり・風通しを確保する
果実をつける枝(結果母枝)を適切に残す
【冬剪定と夏剪定】
冬剪定(12〜2月):休眠期に行う基本剪定。来年の果実を実らせる枝を見極めながら切る。
夏剪定(6〜7月):枝が伸びすぎるのを防ぎ、房への栄養集中を促す軽めの調整作業。
剪定は“切る技術”ではなく、“残すセンス”。その年の樹の様子、気候、昨年の反省を踏まえ、常に変化する対応力が求められます。
栽培に欠かせない「見えない作業」
マスカット栽培は、日々の観察と小さな積み重ねの連続です。樹の変化に気づき、先を読み、次の手を打つ。表には出ない、地道な作業がその美しい果房を支えています。
除草や草生栽培による土壌環境の維持
散水や灌水チューブによる水分管理
整枝・誘引による枝の配置調整
病害虫の早期発見と予防的対策
特に有機物を多く含む土づくりや微生物の活用は、OGINO VINEYARDでも重視している取り組みの一つです。
「一粒入魂」の覚悟をもって始める
マスカット栽培の基本は、知識と経験、そして想いの積み重ねです。「何となく育てて何となく売る」ことはできません。育てる人の姿勢が、驚くほど果実の味に反映されます。
だからこそ、最初の一歩こそ丁寧に。土地と向き合い、枝と向き合い、自分自身と向き合う日々が、その先の景色を豊かにしてくれるはずです。