―― 道具選びは“果実づくり”の第一歩 ――
シャインマスカットを自らの手で育てたい――。
そんな一歩を踏み出す方にとって、まず気になるのが「どんな道具を揃えればいいのか」ということではないでしょうか。
剪定や芽かき、房づくり、病害虫対策……。マスカット栽培には季節ごとにさまざまな作業があり、それぞれに適した道具があります。とはいえ、いきなりすべてを揃える必要はありません。
この記事では、これから栽培を始める方に向けて、「まず持つべき道具」とその使い方、選び方のポイントを、OGINO VINEYARDの実践をもとに解説していきます。
■ なぜ“良い道具”が必要なのか?
道具は、作業の効率だけでなく「作物の仕上がり」にも影響します。
ハサミの切れ味が悪いと、剪定の切り口が傷み、病気の原因に。
手袋が厚すぎると、芽かきや摘粒で繊細な判断ができない。
安価な支柱や棚材は、台風や収穫期の房の重みに耐えられない。
つまり、**適切な道具を選ぶことは“品質を育てるための環境づくり”**でもあるのです。
■ 栽培スタート時にまず揃えたい基本ツール
1. 剪定ばさみ(果樹用)
用途:剪定、摘心、新梢の整理
選び方のポイント:
切れ味が良く、太めの枝も滑らかにカットできるもの
握りやすく、手が疲れにくい設計(人間工学的なグリップ)
替刃式でメンテナンスがしやすいものが長く使える
▶ 例:岡恒・アルス・felco(フェルコ)シリーズなどはプロにも定評あり。
2. 芽かき・摘粒用はさみ(細刃タイプ)
用途:新芽や副梢の除去、果粒整形
選び方のポイント:
刃が薄く、細かな操作ができるもの
手が小さい方にも扱いやすいサイズ感
錆に強く、軽量で作業時間が長くても疲れにくい
▶ 指先の感覚が大切な作業なので、“精密道具”として選ぶ意識が大切です。
3. 剪定ノコギリ(中太〜太枝用)
用途:主枝の整理、古枝の更新など太枝の切断
選び方のポイント:
折りたたみ式で携帯しやすく、安全性が高いもの
刃が替えられる、または研げるタイプ
果樹用に適した曲刃が望ましい
▶ 圃場によっては「ノコギリの扱いこそ剪定の質を決める」とも言われます。
4. 作業用手袋(通気性・操作性重視)
用途:剪定や芽かき、房づくり全般
選び方のポイント:
ゴムコート+布地の薄手タイプが◎
夏は通気性、冬は防寒も意識して複数用意する
指先のフィット感を重視(摘粒などの繊細な作業に影響)
▶ OGINO VINEYARDでは、「季節ごとに手袋も衣替えする」のが基本です。
5. 腰袋・剪定用ホルダー
用途:ハサミやメモ帳、ラベルなどを携帯
選び方のポイント:
丈夫な皮製 or ナイロン製
ハサミとノコギリの両方が収まる設計
ベルトへの固定がしやすく、揺れない仕様
▶ 腰まわりに必要な道具がすべて収まっていると、作業効率が一気に向上します。
■ 房づくり・仕立てに使うおすすめ道具
6. 誘引テープ・バンド・クリップ
用途:新梢の誘引、枝の固定
選び方のポイント:
枝が傷まない素材(やわらかく伸縮性のあるもの)
結束のしやすさと耐候性を両立したもの
テープナーなどの器具と併用すると効率UP
7. 圃場ノート・スマホアプリ
用途:日々の記録・作業履歴の可視化
選び方のポイント:
書きやすさと持ち歩きやすさを兼ねたサイズ
デジタル派には農業用アプリ(Z-GIS、AgriNoteなど)も活用価値あり
▶ OGINO VINEYARDでは、「記録が判断の精度を上げる」と考え、簡易なチェックリストを常に携帯しています。
8. 防虫・病害対策グッズ(初期導入編)
噴霧器(2〜5L程度の肩掛け型)
粘着トラップ・誘引フェロモン
殺菌剤や展着剤(初心者向けは銅剤や天然由来系)
▶ 病害虫対策は、「気づいた時点ですぐ対応」できる準備が肝心です。
■ 長く使える「マイ道具」を育てる意識
マスカット栽培は、1年で完結するものではありません。
毎年木と向き合い、枝を整え、果実を育てていく営みです。
そのなかで、「道具」は生産者の手の一部となっていきます。
ハサミのグリップに手がなじみ、
手袋のフィット感で芽の状態を感じ取るようになり、
ノートの書き込みから圃場の記憶が積み重なっていく。
こうして、「育てているのはマスカットだけでなく、自分の感覚もまた育っていく」のだと、OGINO VINEYARDでは考えています。
■ ステップアップのために+αの道具
本格的にマスカット栽培に取り組みたい方には、次の道具も視野に入れておきたいところです。
トンネル支柱・棚資材:果樹棚の設置が必要な場合
果房袋・防鳥ネット:収穫期の品質と安全性を守るため
潅水チューブ・タイマー:水管理を自動化して安定化
糖度計・果粒計:品質の見える化と記録に活用
これらは「果実品質を高めたい」「栽培面積を増やしたい」といった次のステージに進む際の“伴走者”となるツールです。
■ まとめ|良い道具は、良い果実を支える
道具は単なる“便利グッズ”ではありません。
マスカットの香り、甘さ、粒の張り――そのすべてを裏側で支える、もうひとつの生産力です。
そして何より、良い道具は使う人に“余裕”を与え、作業を「義務」から「楽しさ」へと変えてくれます。
これから栽培を始める方も、今より一歩深く踏み込みたい方も、
ぜひ“自分に合った一式”を見つけてみてください。