1年かけて、ようやくひと房。
シャインマスカットは、見た目の美しさや食味の華やかさから「特別な果物」として愛されてきました。しかしその裏には、年間を通しての丁寧な管理と技術の積み重ねがあります。
ぶどうは“年作(ねんさく)”の作物。つまり、1年という時間の中で、剪定、発芽、開花、房づくり、収穫まで、あらゆる作業がリレーのように連動しています。ひとつでもタイミングが狂えば、最終的な品質に大きく響きます。
この記事では、マスカット栽培初心者やこれから始めたい方に向けて、1年間の栽培スケジュールをわかりやすくご紹介します。
【1月〜2月】冬剪定と土づくり:来季の基礎を整える
● 冬剪定(本剪定)
落葉後のこの時期、木は休眠期に入ります。枝の状態や昨年の結果を見ながら、次年度の成り枝(結果母枝)を残しつつ、余分な枝や弱い枝を切り落とします。
▶ポイント
・基本は“1年枝”を主に残す(前年に伸びた健全な枝)
・来季の房数に直結するため、計画的に
● 施肥・土壌改良
完熟堆肥や石灰資材を投入し、土のpHや通気性、微生物環境を整えます。
※OGINO VINEYARDでも毎年、冬期に土壌分析を実施し、数値に基づいた施肥を行っています。
【3月〜4月】発芽と誘引:命が動き出す季節
● 芽かき(新梢整理)
剪定した枝から芽が動き出しますが、すべての芽を育てると栄養が分散してしまいます。必要な位置の芽を残して、不要な芽を摘み取ります。
▶ポイント
・芽の位置や勢いを見極めて選定
・芽かきの時期が遅れると作業効率が落ちる
● 誘引(新梢の固定)
伸びてきた新梢を棚に沿わせて誘引し、枝と葉がバランスよく日光を受けられるように整えます。
【5月】開花・房作り:品質の8割が決まる重要期間
● 花穂整形
1つの枝に複数出てくる花穂の中から、主穂(主な花の房)を選び、他は切除。房の形が乱れないよう、花穂のサイズを整えます。
● ジベレリン処理(1回目)
開花前〜開花直後に実施されるホルモン処理。種なし果実をつくるために不可欠な作業です。
▶ポイント
・適切な時期(満開後2〜3日以内)を逃さない
・液温・濃度・時間を正確に守る
【6月】摘粒とジベレリン処理(2回目):美しい房へと育てる
● 摘粒
実が着いた状態の果房から、粒同士がぶつからないように間引きします。この作業によって粒の形やサイズ、通気性、見た目すべてが整います。
▶ポイント
・理想は40粒前後/1房
・果梗がしっかりした粒を残す
● ジベレリン処理(2回目)
果粒肥大を促す目的で行う2回目のジベ処理。
この処理によって、粒がふっくらと仕上がり、見栄えにも甘さにも差が出ます。
【7月】袋かけ・病害対策:実を守るための最終段階
● 傘かけ or 袋かけ
露地栽培では雨による裂果や病気を防ぐために、傘かけや袋かけを行います。ハウス栽培の場合も、病気や虫の侵入を防ぐ目的で袋をかける場合があります。
▶ポイント
・傘は果房よりやや大きめで、風で飛ばないよう固定
・袋は通気性のある専用資材を使用
● 病害虫対策
うどんこ病、灰色かび病、ベト病などはこの時期に急増するため、定期的な観察と防除が不可欠です。
【8月〜9月】収穫:1年の成果が現れる瞬間
● 着色・糖度の確認
シャインマスカットは“見た目の黄緑の美しさ”も品質評価の一部です。糖度18〜20度を超えると、香りも味も深まります。
▶収穫適期の目安
・果粒がやや黄色味を帯びた明るい緑に変化
・果皮が張っており、触った感触に弾力あり
● 収穫と選果
収穫した果実は、そのまま箱詰めせず、ひと房ひと房の形や粒の整い具合を見て等級選別を行います。
【10月〜12月】樹を休ませる:翌年のための準備期間
● 落葉後の樹勢確認
収穫を終えた木は疲れています。葉がすべて落ちたあと、樹皮や枝の状態を見て、翌年に向けての健康状態を確認します。
● お礼肥
収穫を終えた樹に感謝を込めて、有機質肥料を中心に“お礼肥”を与えます。これにより、樹勢の回復と翌年の芽づくりが促されます。
年間スケジュールまとめ
月 主な作業
1〜2月 剪定、施肥、土壌整備
3〜4月 芽かき、誘引、展葉
5月 開花、房づくり、ジベ処理①
6月 摘粒、ジベ処理②
7月 袋かけ、病害対策
8〜9月 収穫、選果、出荷
10〜12月 お礼肥、落葉観察、冬支度
ひと房の重みは、日々の積み重ねから
シャインマスカットの栽培は、一年中が“勝負の時”。
その中でひとつひとつの作業が、果実の姿や味わいに確かに反映されます。
OGINO VINEYARDでも、毎年“去年よりも一歩よい房を”という気持ちで、一日一日を積み重ねています。見落としがちな些細な変化に気づく目と、手を抜かず丁寧に仕上げる意識。それこそが「特別なシャインマスカット」を育てるための姿勢です。
この記事が、これからマスカット栽培に挑戦する方にとっての“羅針盤”となり、実り多き一年の助けとなれば幸いです。