“ただ作る”から“想いを込めて育てる”へ
マスカットを育てるという営みは、単なる「作業」の積み重ねではありません。
土の状態、日照の管理、剪定、摘粒、袋がけ、収穫——そのすべてに意味があり、ひとつとして無駄な工程はありません。

OGINO VINEYARDの代表・荻野さんは言います。

「一房一房が自分の鏡なんです。どこか手を抜けば、それが実に出る。だから怖くもあり、面白い。」

彼の言葉には、農業が“自己表現”であり、真剣勝負であるという意識がにじみ出ています。見た目の美しさだけでなく、味や香りにまで意識を集中させて育て上げた一房には、作り手の想いが宿ります。

生き物としてのマスカットに向き合う日々
ぶどうは繊細な生き物です。とくにシャインマスカットは病気や天候の影響を受けやすく、毎年が“違う”という前提で臨まなければなりません。

春の萌芽、夏の房づくり、秋の収穫——その一瞬一瞬を逃さず観察し、必要な手入れを加えていく日々。

「雨が続けば実が割れる。暑すぎれば糖度が上がりすぎてしまう。だけど、完璧な年なんてない。それでも自分の理想を目指し続けることが、やりがいになっています。」

荻野さんのこの言葉に、農家としての覚悟と誇りが表れています。自然と向き合うというのは、思い通りにならないことを前提に、最善を尽くし続けるということ。そこにこそ、“生きている実感”があると語ります。

食べた人の感動が、次のシーズンへの力に
「自分のつくった果実が、誰かの記憶に残る」——これはマスカット農家にとって何よりのやりがいです。

とくにシャインマスカットは、贈答用や特別なシーンで食べられることも多く、購入者から直接感想をもらうことも少なくありません。

OGINO VINEYARDでは、オンラインでの販売も行っており、全国から寄せられる「美味しかった」「感動した」という声が、生産の原動力になっているといいます。

「畑ではひとりの戦い。でも、その果実が人の輪を生むんです。」

この言葉が示すように、生産者の孤独な日々が、誰かの笑顔や記憶とつながっているという実感。それこそが、技術では得られない“生産者の誇り”です。

“マスカットづくり”は、人生そのもの
OGINO VINEYARDのぶどうづくりは、単に良い実を育てることに留まりません。
それは、畑という舞台で自分自身と向き合い、磨き続ける人生そのものでもあります。

「失敗した年も、手応えを感じた年も、自分にしかわからない積み重ねがある。だから面白いし、やめられないんです。」

1年をかけて育てた果実は、数日で出荷され、やがて消えていく。
けれどその一房に込められた経験と記憶は、次のシーズンへと受け継がれ、また新たな挑戦を支えていきます。

経営者としての視点も持つ
やりがいを感じる一方で、マスカット農家には経営者としての視点も欠かせません。

・どうすれば品質を落とさず、収量を確保できるか
・どんな販路で、自分の果実を伝えていくか
・パッケージや価格は、ブランド価値に見合っているか

OGINO VINEYARDは、ブドウづくりから販売・広報・ブランディングに至るまで、一貫した“ストーリー設計”を行っています。

商品を売るのではなく、「想いを届ける」。この姿勢が、他産地との差別化にもつながっています。

地域の未来も一緒につくっていく
マスカット農家の挑戦は、自分ひとりの成功に留まりません。

OGINO VINEYARDでは、周辺農家との連携や若手生産者との情報共有も積極的に行っています。
「この地域にしかない価値を発信したい」という思いが、地域全体の魅力向上に結びついているのです。

「この土地に生まれ、この土地で生きる。その選択を誇りに思えるような農業をしたい。」

そう語る荻野さんの姿勢から、マスカット栽培という営みが、個人の活動を超えて“地域文化の一部”になっていることがわかります。

まとめ:やりがいは、理屈じゃない
マスカット農家にとってのやりがいとは、「誰かの役に立っている」と実感できること。
そして何より、「自分の信じる価値を、自分の手で形にしていけること」。

それはきっと、他のどんな仕事にも勝る充実感です。
自然と向き合い、理想を追い、誰かの記憶に残る果実をつくる。
その日々こそが、生産者にとっての「最高のやりがい」であり、「生きる理由」なのです。