一粒に詰まった香り、みずみずしさ、そして豊潤な甘み。
シャインマスカットは、ただ「美味しい」だけではなく、見た目やストーリー性までもが消費者の心をつかむ特別な果実です。
しかし、この美しさと品質の裏側には、毎年変化する自然との対話、繊細な管理技術、そして何より“挑戦するマインドセット”があります。
本記事では、山梨県甲州市でぶどうを育て続ける【OGINO VINEYARD】の視点を交えながら、マスカット生産のスタートに必要な心構えと、その裏側にあるリアルな挑戦の数々を紐解いていきます。
シャインマスカットという果実に惚れ込むことから始まる
マスカット生産を始めるにあたって、まず大切なのは「この果実が好きかどうか」です。
手間もかかり、天候にも左右されるマスカット栽培は、決して容易な道のりではありません。
OGINO VINEYARDの代表・荻野さんは、「ぶどうに人生を懸ける」と語ります。
その覚悟の背景には、シャインマスカットに心から惚れ込んだ想いがあります。
美味しさの先にある、「感動を届けたい」という気持ちこそが、挑戦を支える原動力。マスカット栽培を本気で始めるなら、まずはこの果実を“徹底的に好きになる”ことがスタートラインです。
生産に必要な技術よりも、「考え抜く力」
マスカット栽培は、苗を植えれば実るという単純な作業ではありません。
日照、湿度、剪定、摘粒、水分管理、糖度の調整など、一つひとつの工程に細かな判断が求められます。
しかし、初心者にとってすべてを完璧にこなすことは不可能です。
だからこそ必要なのは、「なぜこの作業が必要なのか?」「なぜこの品種を選ぶのか?」と問い続ける姿勢です。
OGINO VINEYARDでは、毎年のデータを丁寧に記録し、前年と今年の違いを比較しながら次の手を考えていきます。
正解のない自然の中で、試行錯誤を続けること。それが、農業のリアルな“挑戦の裏側”です。
マスカット農家になるには? 3つのスタートステップ
1. 土地と気候を知る
まず必要なのは、自分の圃場(畑)がマスカットに適しているかを見極めること。
シャインマスカットは水はけの良い土壌と、日照時間の確保が重要です。特に梅雨時期の過湿は裂果のリスクを高めるため、立地選びが結果を左右します。
OGINO VINEYARDも、標高・風通し・水はけを吟味したうえで、塩山の地を選びました。
2. 設備投資の覚悟を持つ
マスカット栽培には、雨除けハウス、誘引設備、防鳥ネット、冷蔵設備など、初期投資が不可欠です。
最初からすべてを完備する必要はありませんが、品質と収量を安定させるためには避けて通れない設備も多いのが現実。
OGINO VINEYARDでは、品質を守るための投資を“リスク”ではなく“信頼への投資”と捉え、段階的に拡張してきました。
3. “売る”ことまで考えて育てる
美味しいマスカットができても、伝えられなければ誰の手にも届きません。
現代の農家に求められるのは、「生産者」と「発信者」の二面性です。
OGINO VINEYARDは、オンラインショップ「Piemoverita」を自ら運営し、産地・品種・生産者の哲学までを丁寧に伝えることで、リピーターを獲得。
“自分のぶどう”を自分の言葉で届ける。それがこれからの農業の形です。
「一年目は失敗して当たり前」でもあきらめない
挑戦のスタートで最も大切なのは、「失敗しても学びに変える覚悟」。
気象の変化、病害虫、収量のばらつき——どれも予測不可能な事態ばかりです。
OGINO VINEYARDも、創業当初から順風満帆ではありませんでした。
ぶどうの形が整わなかった年、市場価格が急落した年、それでも「どうすれば良くなるか」を問い続け、改善のヒントを地道に探し続けてきました。
成功は、偶然ではなく“積み重ねの先”にしかありません。
一人の挑戦が、地域を動かす
個人の挑戦は、やがて地域を巻き込みます。
OGINO VINEYARDの取り組みは、近隣の農家に刺激を与え、若手農業者が志を持って就農するきっかけにもなっています。
「地域に誇れる果物を残したい」
「自分の畑が、次世代へのメッセージになるように」
こうした意識が、マスカットという果実に新しい物語を吹き込んでいます。
まとめ:マスカット栽培は“想い”が先、技術はあとからついてくる
マスカット生産を始めるには、知識も資金も必要です。
しかし、それ以上に欠かせないのが「やり抜く覚悟」と「果実への愛情」。
OGINO VINEYARDの荻野さんが語るように、
「この一房を見た誰かが、『また食べたい』と思ってくれたら、それだけで報われる」
その想いがある限り、マスカット栽培はただの仕事ではなく、人生そのものになります。
あなたの挑戦が、誰かの記憶に残る一粒を育てる日も、きっと遠くありません。