— 一年を通して育む、シャインマスカットのリズムと手仕事 —

美しく輝く果皮と、はじけるような甘み。シャインマスカットは、いまや日本を代表する高級果実として多くの人々を魅了しています。しかし、その一粒が実るまでには、四季を通して繊細な管理と技術の積み重ねが必要不可欠です。

この記事では、シャインマスカットの「生育サイクル」を一年の流れに沿って丁寧に解説します。芽吹きから収穫、そして休眠へ――。自然と寄り添いながら実りを導く、OGINO VINEYARDの視点をお届けします。

生育サイクルの全体像
シャインマスカットの栽培は、「剪定」から始まり「収穫」「翌年の準備」へと続く、年単位のリズムで動いています。大まかに分けると以下のような流れになります。

時期 主な作業・生育状態
12月〜2月 剪定・休眠期
3月〜4月 萌芽・展葉・芽かき
5月〜6月 花穂整形・開花・ジベレリン処理
7月〜8月 果粒肥大・袋掛け
9月〜10月 着色・糖度上昇・収穫
11月 お礼肥・葉落とし・来期準備

このサイクルの一つひとつの工程が、果実の品質に直結します。それぞれの時期ごとにポイントを解説していきましょう。

【冬】12月〜2月:剪定と休眠期 〜翌年の芽を選ぶ季節〜
マスカットの木は、落葉とともに休眠期へ入ります。この時期に行うのが剪定作業です。

剪定では、前年に実をつけた枝を整理し、新しい芽の基礎を整えます。ここで残す枝の角度や芽の向き、枝の太さは、翌年の芽吹きや果実の位置を左右します。

ポイント:
剪定は1〜2芽を残す「短梢剪定」が基本

清潔な剪定ばさみを使用し、傷口からの病気を予防

樹勢が強い年はやや深めに、弱い年は浅めに

この時期は「果実を育てる」というよりも、「未来の芽を信じて整える」作業です。

【春】3月〜4月:萌芽・展葉・芽かき 〜命が目を覚ます〜
気温が上がるとともに、枝の先端から芽がふくらみ始めます。これを「萌芽(ほうが)」と呼びます。やがて葉が開き、枝が伸び始めると、過密にならないよう芽かき(不要な芽を取り除く作業)を行います。

ポイント:
萌芽は気温と土壌温度に左右される

芽かきで1枝1果が基本。余分な芽は早めに除去

病害虫の発生を防ぐため、風通しを意識した枝配置を

この段階では、「育てる数を選ぶ」ことが重要です。どの芽に実を託すか、その判断がプロの技術。

【初夏】5月〜6月:花穂整形・開花・ジベレリン処理 〜品質を決める勝負どころ〜
シャインマスカットが開花期を迎えるこの時期、房の形を整える「花穂整形」、種なし処理や果粒肥大を促す「ジベレリン処理」など、重要な工程が目白押しです。

ジベレリン処理とは?
植物ホルモンの一種で、開花後にこれを房に浸漬することで「種なし」かつ「大粒化」が可能になります。2回の処理(1回目:開花直前、2回目:開花後10日前後)が一般的です。

ポイント:
花穂整形では1房あたりの花数を調整(30〜35粒が目安)

ジベレリン処理のタイミングが遅れると効果減

この時期の作業精度が、房の美しさを左右する

房づくりはまさに職人技。自然の流れを読みつつ、手仕事で形を仕上げていきます。

【夏】7月〜8月:果粒肥大と袋掛け 〜陽光の力を受け止めて〜
夏の強い日差しと高温により、果粒は一気に肥大します。この時期は房に日焼けや害虫を防ぐため、袋掛けを行います。袋の中で果実はじっくりと熟し、香りと甘みを蓄えていきます。

ポイント:
袋掛けは2回目のジベレリン処理から1週間以内が理想

房の周囲の葉を適度に残し、光合成を促進

極端な水切れは裂果の原因になるため、水分管理が重要

果粒の大きさ・糖度・香りの三拍子がそろうかどうか。この期間の管理にかかっています。

【秋】9月〜10月:成熟と収穫 〜一年の集大成〜
いよいよシャインマスカットの収穫シーズン。果皮が透き通るような黄緑色に変わり、甘みと香りがピークを迎える頃合いを見て、房ごとに手摘みで収穫します。

収穫適期の見極めは、糖度や果粒の張りを見ながら行います。

ポイント:
糖度17〜18度が目安

房の見た目(着色・果粒の並び)も重要

一房ごとに確認し、丁寧にカット

この瞬間に報われるのは、冬から続く丁寧な積み重ね。一本の木に一年を預けた成果です。

【晩秋】11月:お礼肥と来年への準備 〜次の実りへつなぐ〜
収穫が終わっても、仕事は終わりません。木に「ありがとう」の気持ちを込めて**お礼肥(おれいごえ)**を施し、来年に向けた体力を回復させます。また、葉を落とし、冬に向けて病害虫の予防を徹底します。

ポイント:
有機質を中心とした緩効性肥料で体力回復

枝・葉を整理して病気の温床を除去

来年の剪定を見据えた枝構造の観察

このひと手間が、翌年の芽吹きをスムーズにし、次の生育サイクルを助けてくれます。

生育サイクルを「繋ぐ」ことが仕事
マスカットづくりは、「1年ごとの作業」ではなく「循環を守る営み」です。

OGINO VINEYARDでは、その年だけの実りを求めるのではなく、毎年、持続的に実を結ぶ仕組みを重視しています。無理に実らせすぎず、木の声に耳を傾けながら、自然のリズムと調和する。

それが、果実の本質を伝えるマスカットづくりにつながっていると信じています。

まとめ|マスカットのサイクルは「自然との対話」
シャインマスカットの一年は、細やかな観察と、的確な判断の連続です。四季の流れに寄り添いながら、目に見えない未来の果実に想いを注ぐ――。

この記事が、これからマスカット栽培を始める方、さらなる品質向上を目指す方にとって、少しでも実りあるヒントとなれば幸いです。