艶やかに輝く果皮と芳醇な香り。
そのまま食べても、ワインにしても魅力が際立つマスカットは、いまや日本の果実の中でも特に注目される存在となっています。
その一方で、栽培の難易度や需要の変化、そして市場競争の激化といった課題も見え始めています。
本記事では、OGINO VINEYARDが実践する“挑戦する農業”という視点から、マスカットにおける品種改良の最新動向と、市場の今後の可能性について考察します。
市場が拡大する中で求められる「次の一手」
近年、日本国内の生鮮果実市場において、シャインマスカットをはじめとするマスカット系品種は右肩上がりの人気を維持しています。
糖度が高く、皮ごと食べられる利便性や見た目の華やかさが支持され、お中元・贈答用途はもちろん、スーパーや百貨店での一般流通も拡大。
また、輸出品としても中国や東南アジアを中心にニーズが増加し、「高品質な日本産マスカット」は世界でもブランド化が進んでいます。
しかし同時に、供給量の増加により価格競争が激化。
市場には「次なる差別化」「付加価値」が求められる段階に差し掛かっています。
OGINO VINEYARDの荻野代表も次のように語ります。
「シャインマスカットだけでは、これからの10年は乗り切れない。品種の多様化や、用途を広げる発想がカギになる時代です」
品種改良の最前線――“ポスト・シャイン”を見据えて
現在、日本各地の研究機関や民間ブリーダーによって、次世代のマスカット品種が積極的に開発されています。
以下は、注目されている“ポスト・シャイン”候補たちの一部です。
1. クイーンルージュ(山梨県開発)
・シャインマスカット × ユニコーンの交配種
・赤系で皮ごと食べられ、シャインよりも香りが強い
・糖度は20度前後で安定しやすく、酸味も少なめ
2. ほしうらら(長野県開発)
・種なしで皮ごと食べられる赤系品種
・裂果に強く、棚持ちも良好
・シャインとの差別化を狙えるビジュアル
3. BKシードレスや雄宝(ゆうほう)などの大粒系品種
・輸出向けを意識した、インパクトのある外観
・加工やカットフルーツ用途にも期待
OGINO VINEYARDでは、こうした新品種の試験栽培を一部圃場でスタート。
既存のシャインとの棲み分けや、味の傾向、成熟期の違いなどを丁寧に見極めながら、「自分たちの風土に合う品種」を模索しています。
“地域で育てる品種”という考え方
新品種は、単に味や見た目の変化だけで評価されるものではありません。
むしろ、地域の気候や土壌との相性、労力、リスク、そして販路までをトータルで考えることが、今後ますます重要になります。
OGINO VINEYARDのある山梨県甲州市は、昼夜の寒暖差が大きく、日照時間にも恵まれた果樹栽培の名産地です。
この風土を活かせる品種とは何か?
地域で長く付き合える品種とは?
その問いを持ちながら、荻野さんは慎重に品種選びを進めています。
「どんなに人気の品種でも、うちの畑で育たなければ意味がない。地元の研究機関や先輩農家と連携しながら、“地域で活きる品種”を見極めるのがプロの仕事だと思っています」
マスカットの未来は“多用途”にあり
果物は「そのまま食べる」だけでなく、様々な用途で新たな命を得る可能性を秘めています。
ジュース・スムージー:糖度の高いシャインマスカットは非加熱加工にも最適
ドライフルーツ:皮ごと楽しめるシャインは高級菓子素材としても注目
ワインやリキュール:マスカット・ベーリーAとのブレンドで香り豊かな酒類に
観光農園・体験型収穫:五感で楽しめる「食×体験」のコンテンツに活用
OGINO VINEYARDも「収穫して終わり」ではなく、体験型農業や6次産業化に積極的に取り組んでいます。
「これからの時代、“何を育てるか”と同じくらい、“どう届けるか”が問われる。味だけでなく、背景やストーリーも含めて“商品化”していく必要があります」
海外市場で問われる「ブランド力」と「信頼性」
日本のマスカットは、今やアジア諸国で高級フルーツの代表格として認知されつつあります。
中国・台湾・シンガポールなどでは、「日本産=安心・高品質」という信頼が既に浸透しており、特にシャインマスカットは贈答用として高単価で取引される傾向にあります。
しかし、これも一過性の流行に頼るのではなく、安定供給・品質管理・ストーリーテリングといったブランド構築が鍵となってきます。
OGINO VINEYARDのように、栽培段階から丁寧に向き合い、土づくり・気候・収穫の哲学までを開示できる農園こそ、信頼を集めていく存在となるでしょう。
まとめ|マスカットの未来は「挑戦する生産者」から拓ける
品種改良の進化、市場の変化、多様化するニーズ。
マスカットという果実は、今、まさに“進化の入口”に立っています。
その変化にただ流されるのではなく、地域を見つめ、自らのスタイルで受け止め、次の一手を模索する生産者たちの存在が、未来をつくっていきます。
OGINO VINEYARDが体現するように――
マスカットの可能性は、“果実”という領域を超え、文化・体験・地域産業へとつながっていくのです。